第二回【座談会】倫理委員会の中央化

<参加者>※敬称略

  • パネラー:
    大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部 臨床研究センター センター長 山本洋一
    宮崎大学医学部付属病院 臨床研究支援センター 研究倫理支援部門長 岩江荘介
    東京大学医学部研究倫理支援室 副室長 赤林朗
  • コーディネーター:
    東京大学医学部研究倫理支援室 倫理委員会事務局長 上竹勇三郎
  • オブザーバー:
    東京大学医学部研究倫理支援室 渡邉卓也

3.倫理審査委員会の中央化のメリット・デメリット

上竹)
中央化の「メリット」と「デメリット」についてはどうですか?
山本)
一番大きなデメリットは準備態勢の格差が浮き彫りになることでしょう。それぞれの施設がちゃんとできるようになってから中央化されれば大きな問題はないのですが、まだ体制が整っていない所が中央化を依頼されたら、ちゃんとやっていけるのかどうか?研究者が優秀なら問題ないという考えもあるかもしれませんが、研究者はスーパーマンではないので、やはり施設が研究の支援や管理をする必要があると思います。そこの議論を飛ばして中央化を進めているのが非常に危ないと私は思いますね。
岩江)

メリットは、効率化、全体の作業量の減少です。デメリットは質の低下です。これは山本先生がおっしゃったことと同じなんですが、人材もスキルも整っていない施設──それはうちの大学も当てはまりますが──いきなり中央審査という話になったら、質を担保できるかどうか……。

赤林)
審査を通した後、どこまでフォローアップするかということもまだ議論されていません。通った後に、「審査は通っていますから、大丈夫ですよ」なんて、中央倫理委員会のお墨付きを悪用して無茶な研究協力を患者に依頼する可能性もゼロでは無いわけですから。
上竹)
ということは、大小様々な研究実施施設の研究実施面での向上なくしては、この制度はなかなか難しくて、そこが育たないと、中核のような中央の施設が、いわゆる分担施設の倫理審査だけではなく、実施面での管理までせざるを得ない状況となってしまい、結果として中央の事務局の業務量が多大なものになると予想されるのがデメリットということになりますでしょうか。
山本)
そこは役割分担だと思いますよ。ただ、審査は中央に任せても、研究実施施設が本当にちゃんとやってるの?という部分は出てきますが……。
赤林)
今はまだ“土壌”ができあがっていないと思いますね。
上竹)
時期尚早だと?
赤林)
ステップをちゃんと踏まなければいけない、という話です。
岩江)
そもそも中央倫理委員会に多くのものを求めすぎていますよね。問題は山積みなのに、始めればなんとかなるだろうという空気を感じる。
赤林)
それは幻想ですよ(笑)政府の指針は、施設の長が承認すればOKというスタンスだけれど、現場はそう簡単にはいかない。
岩江)
入り口にすぎないですよね。
赤林)
本当に、入り口のほんの第一歩です。

4.国際的な動向

上竹)
国際的にはどうなんでしょうか。山本先生は海外の現場を多く視察されていますが。
山本)
ヨーロッパの場合は、中立性の高いRECが中心となってやっているのですが、その質がすごく良いかというと、必ずしもそうではありませんね。中央化されると現場の情報が入りづらくなるのかもしれません。
アメリカの方は、AAHRPP(※)というNPO団体がイニシアチブをとっています。倫理委員会と組織と研究者の3つを同時にチェックするのが特徴で、研究者にもランダムでインタビューするなど、きめ細な活動をしています。もしうまくいっていなかったら、処罰するのではなく教育して改善していこうという考えも好感が持てます。政府に頼るのではなく、自分たちで被験者保護をしっかりしようという意識が高いです。

 
※AAHRPP=臨床研究を実施している団体とともに被験者保護のレベル向上に取り組んでいるアメリカのNPO団体。被験者保護のレベルがアメリカ政府の要求レベルをクリアしている施設に認証を与えている。

上竹)
アジアはいかがですか?
山本)
台湾では、倫理委員会の中央化に対して随分前から試行錯誤しています。結果的に完全な中央化ではなく、各施設の審査も取り入れながらバランスよくやっています。いわば“ハイブリッド式”でしょうか。
上竹)
海外と比べて、日本に足りないのはどのような点ですか?
山本)

「事務職」の人の頑張りですね。いえ、日本の事務職が頑張っていないということではないんですよ。海外はプロ意識と向上心をしっかり持って働いています。しかし日本はいわゆる“事務さん”が多く、プロとして積極的に仕事をしようという人は、残念ながら少ない状況です。

岩江)
確かに日本の倫理審査って、プロフェッショナルとしての審査というより、コンプライアンスのチェックがほとんどで、事務仕事的なんですよ。指針の文言に寸分違わないことが“倫理”なんです。指針より被験者保護が大事だろう、と思うんですが。
赤林)
あくまで指針なので、法律ではないのですがね……。
ただ、指針に従わないと、研究費をもらえなくなりますから、これは研究者にとっては大問題。だから、本来の被験者保護のための審査ではなく、とにかく指針に合わせて無事に通すための審査になってしまっているのでしょう。