第二回 【座談会】倫理委員会の中央化

<参加者>※敬称略

  • パネラー:
    大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部 臨床研究センター センター長 山本洋一
    宮崎大学医学部付属病院 臨床研究支援センター 研究倫理支援部門長 岩江荘介
    東京大学医学部研究倫理支援室 副室長 赤林朗
  • コーディネーター:
    東京大学医学部研究倫理支援室 倫理委員会事務局長 上竹勇三郎
  • オブザーバー:
    東京大学医学部研究倫理支援室 渡邉卓也

5.資金の確保、事務局体制

上竹)
上竹勇三郎氏

プロフェッショナルな仕事をするには、“お金”の問題も避けては通れません。事務局の運営費や人件費は、現状、大学の運営費、公的資金、審査料などで賄っているわけですが、求められるレベルを鑑みますと、まだまだ十分とは言えません。国は、審査料をしっかりとって事務局の経費に充当すべきと言っており、具体的には、今後認定臨床研究審査委員会で審査する案件については、審査料を1件あたり50万円〜100万円ぐらいに設定すべきでは、などと言っていますが、果たしてそこまで取れるのか疑問が残るところです。

さて、経費で大きいのは人件費です。事務局の人件費も、医療系と事務系では随分と変わってきます。阪大はどちらかと言うと、医療系の方が多いと聞いていますが?

山本)
阪大の場合は当初から医療職中心でやってきたのですが、医療職ばかりだとお金がかかるので、医療職以外でもできる仕事は事務職の方に入ってもらい、やってもらうようになりました。すると事務の人でも3〜5年もやれば、結構なレベルの仕事ができるようになるんです。いまは観察研究であれば、大体チェックできますよ。
岩江)
うちは、倫理審査の申請書チェックは事務職の方がやっています。同じ研究支援でも、DM(データマネジメント)というセクションについては、専門的な内容なので、病院の治験部門での実務の経験が長い、“スーパー事務職”といわれる方が行っています。研究デザインの指導などレベルの高い相談を受けたりする教員として医師が1名おりますが、事務局には医療職はいません。
上竹)
なぜ医療職の人が少ないのでしょうか?
岩江)
地方なので、こういう仕事をしに来てくれる人が少ないんですよね。もちろん、給料の面もあると思いますが……。
山本)
地方じゃなくても難しいですよ(笑)
上竹)
やはり先立つものが大事ということですね。具体的にはどのようにやりくりしているのでしょう?
山本)
阪大は日本で最初に課金の仕組みを作りました。観察研究も含めて、1研究あたり4〜12万円の申請料をいただいています。その収入として、年間にある程度のお金が入ってきます。それを被験者保護室のスタッフの人件費などに充てています。ただ、システムの管理費や改修費を含めるとそれだけでは足りないので、AMED(※)からの公的資金や、医学部からの資金、そして治験収入などでなんとかやっています。

 
※AMED=Japan Agency for Medical Research and Development 日本医療研究開発機構

赤林)

阪大は、指針が改正された時に、すかさず山本先生を呼んで、こういう部門を作ったのは先見の明があったと思います。そして臨床研究もどんどんやっていこうという狙いで、医学部が最初にお金を出したのが大きい。

上竹)
宮崎大学はいかがですか?
岩江)
うちは内部審査なので、お金はとれないですね。
山本)
うちは課金の仕組みこそ最初に作りましたが、具体的な金額については、まだまだ議論が必要だと思っています。もちろん企業からはしっかりとるべきでしょうが、医師が主導している研究に対しては、どれくらいとっていいものか……。台湾はせいぜい数千円程度ですし、ヨーロッパは国がやっているのでそもそも取りません。
上竹)
アメリカはどうなんですか?
山本)
企業からの申請と公的研究機関からの申請とで、うまくバランスをとっていると思いますよ。
上竹)
なるほど。あまり研究者に負担が掛からないようにしているんですね。
山本)
そうですね。

6.教育の重要性

上竹)
倫理委員会の質の向上のためには研究倫理の「教育」も非常に重要になってくると思うのですが、例えば「eラーニング」のシステムはかなり乱立しています。
阪大は「CROCO(※)」、東大は臨床試験アライアンスと連携して「CREDITS(※)」というシステムを独自に持っていますし、他にも文部科学省の委託で信州大学が行っている「CITI Japan(※)」など多くのeラーニングのシステムが存在しています。AMEDも新たに教育システムを開発しているようですね。
※CROCO=Clinical Research Online Professional Certification Program at Osaka University
※CREDITS=Clinical Research Education and Interactive Training System
※CITI Japan=Collaborative Institutional Training Initiative Japan
このように教育システムが乱立しているのは、煩雑化という意味でも、大きな問題だと思います。継続教育ならまだしも、基礎的な教育についてはeラーニングのシステム一元化されていても良いようにも思いますが、山本先生はどうお考えですか?
山本)
僕は少し違った考え方なんですね。本来、大学の教育というのは研究室や教室がベースにあって、そこにいる学生なり研究者が、いつでも会えて、話を聞ける、授業も受けられるというのがベスト。それができないからeラーニングがあるわけで、だから大学ごとに現場の教育体制があり、その上で、現場の教育体制にあわせたeラーニングシステムを持つという考えがあってもよいと思います。
上竹)
運用次第によっては、いくつもあっていいと。岩江先生は、いかがですか?
岩江)

僕は、教育の基本はOJT(※)だと思います。支援側の教育の場合、提出された申請書をしっかり読んで、もし問題があったらどう直すかを考える。それでこそ、指針の内容や研究倫理の基礎をしっかりと学ぶことができるんです。研究者側も、実際に申請書を書く中で色々なことを具体的に学べるはず。つまり、支援側も、研究者側も、実際の仕事を通して学ぶのが一番効果的だと思います。
eラーニングは……内容を網羅するのには優れていますが、最後のクイズだけ2〜3回やったら合格、という風に形骸化しがちなのがちょっと怖いですね。

※OJT=On-the-Job Training 現任訓練
上竹)
なるほど。倫理委員会の仕事にしても、委員ごとに観察研究から侵襲介入研究や再生医療まで色々あるわけですから、全ての人に同じ教育をしていいのか?という問題はありますよね。事務局員もしかりです。
ただ、効率性の問題もありますので、まず基礎的なことを一括的にeラーニングで学んでもらって、その後、専門的なことを個別の研修会などを開いてフォローするのがいいのでしょうか。
アメリカのCITI のeラーニングと「プリマー(※)」の活動がそのような位置付けになると思いますが?

 
※プリマー=PRIM&R(Public Responsibility In Medicine and Research)
米国の、研究における倫理水準の向上を目的に、資格認証と教育環境の整備を行う団体。

山本)
プリマーは合計4日間あって、20くらいセッションがあるんですよね。自分が聞きたいと思うセッションを自由に選択して行ける形になっていて、そこで必ずディスカッションがある。日本はせいぜい2つに分かれるくらいですので、自分の行きたいセッションに必ずしもあるわけではありません。
しかもアメリカの場合、そういうセッションはそれぞれの倫理委員会から何人か必ず行くようになっていて、そのための費用も必要経費だと考えています。参加費が1人10万円以上で、プラス交通費と宿泊費ですから相当ですけどね。大阪から東京に派遣するのも渋る日本とは大違いですよ(笑)。
上竹)
確かにそうですね(笑)。
赤林先生はいかがでしょう?
赤林)
eラーニングとか本というのは補完的なものですから、やはり限界があると思います。だからこそ、「研究倫理支援室」の出番だと思うんですけどね。そこで手順などについて、研究者にどう教育的に教えてあげられるか?もちろん教える人材も開発しなければなりませんがね。
上竹)

今後、倫理委員会の活動がより本格的になっていけば、その分、事務局の人間のスキルアップも求められます。ところが、今の枠組みの予算では、とても根本的な教育は無理でしょう。だから人材交流もかねて、色々な機関でOJTをやって、人材のボトムアップをしていかないといけないと思います。

山本)
うちもスタッフの教育についてはかなり力を入れています。学会に行かせたり、資格を取らせたり……研修会など行きたいところがあったら、海外を含めてどこでも行ってください、と(笑)。
上竹)
それはモチベーションが上がるでしょうね。