第二回 【座談会】倫理委員会の中央化
<参加者>※敬称略
-
パネラー:
大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部 臨床研究センター センター長 山本洋一
宮崎大学医学部付属病院 臨床研究支援センター 研究倫理支援部門長 岩江荘介
東京大学医学部研究倫理支援室 副室長 赤林朗 -
コーディネーター:
東京大学医学部研究倫理支援室 倫理委員会事務局長 上竹勇三郎 -
オブザーバー:
東京大学医学部研究倫理支援室 渡邉卓也
7.各種連携の可能性
- 上竹)
-
さて、教育システムに続いては、契約書や申請書など書類の共有化について議論したいと思います。
実はうち(東大)は独自の仕様にこだわっていなくて、阪大の仕組みにそのまま乗っかってもいいとさえ思っているのですが、その辺りいかがでしょう? - 山本)
- うちは、臨床研究電子申請システムのコアのところは他の施設と共通なんですが、実際の申請があった後、医療職や事務職がチェックしていくステップや、返し方などが異なっています。ですから、各施設が使いやすいように少しずつカスタマイズしているという状況ですね。コアは基本的に一緒なので、そこは共有すれば使いやすくなるとは思いますけどね。
- 上竹)
- そうですね。申請書を合わせるくらいのことであれば、かなり実現可能なのかなと思いますが、岩江先生いかがでしょうか?
- 岩江)
-
そうですね……うちは、結構カスタマイズしていますね。後々の検索をしやすくするために、研究の分類や属性を細かく分けてシステムにデータ入力してもらうとか……臨床研究の範囲はすごく幅広いので、書式の統一はなかなか難しいかもしれません。
一方で、今年(平成29年)4月に成立した「臨床研究法(※)」の申請書や実施計画書、説明同意文書の書式こそ統一しないと、共同研究がやりづらい、あるいはスムーズに進められないという事態に陥る恐れがあります。自主臨床研究と比べれば、各施設の事務裁量の幅も狭いと思います。 - ※臨床研究法=「ディオバン事件」など相次いで発覚した研究不正をきっかけにつくられた法律。規制を課すことで研究不正を防止し、臨床研究に対する信頼性を取り戻すのが狙い。
- 山本)
- たしかに、臨床研究法だったら、治験が統一フォーマットになっているように共通化するのは比較的簡単だと思います。
- 岩江)
- 急がないと!例えば“1年後に統一しましょう”では遅い。それぞれが独自にカスタマイズしてしまって、いざとなったら“うちはもうダメ”っていう話になりかねない。
- 上竹)
- やるならいましかない、ということですね。
- 岩江)
- ただ、そうしたガバナンスのあり方を発信する場がないんですよね。
- 山本)
- そう、プリマー的ものがない。そこが、やっぱり日本の医学研究分野の問題点だと思いますよ。
- 上竹)
- ところで渡邊さん、せっかくなので何かありますか?
- 渡邊)
- はい。倫理支援職は、研究の適正化の貢献はできていると思うのですが、研究の発展にはなかなか貢献できていないのかなと思ってしまいます。倫理支援職は、どのようなモチベーションで働くと良いでしょうか?
- 山本)
-
支援職は、研究にストップをかけているイメージありますが、支援職がそこできちんと働かないと、変な研究が世にでるわけですから、役割は大きいですよね。
海外の支援職は、すごくプライドを持って仕事をしています。台湾や韓国では、組織の誰かが、年1回必ずアメリカのプリマーに行って積極的に勉強しています。日本の支援職も、それくらいやれる自由さがないと本当はいけないと思います。
うちは、事務職の人にもプリマーに行ってもらっていますし、行くだけではなくて学会に出ろとも言っている。学会で論文を発表することも課しています。それが良いトレーニング、そしてモチベーションの元になっていると思います。 - 渡邊)
- あと、仕事をしていると本当にこれで良いのか?他所ではどうやっているのか?と思うことがあります。つまり実務者同士で情報交換したいのですが、そういう場所や機会がなかなか無くて……。
- 山本)
- 阪大では10年前から、事務局のスタッフを連れて先進的な所を訪問することをしてきました。もちろんそこでは意見交換もしました。
- 上竹)
- 本当に先進的ですね。
- 山本)
- 意外かもしれませんが、周りからは「阪大みたい所が臨床研究の中核になるなんて思いもしなかった」とよく言われます。基礎研究ばかりで、そういう土壌など全くありませんでしたからね。しかし、当時の研究科長や病院長がいち早く目をつけて、臨床研究の体制を整えるために予算を出してくれたのが非常に運がよかったと思います。
- 赤林)
- 阪大の先生方は、本当に先見の明があったと思いますよ。
──ここで上竹が、同席していた東大研究倫理支援室のスタッフ・渡邉卓也に水を向けた。
8.まとめ
- 上竹)
- そろそろ時間が無くなってきましたので、一言ずつまとめの言葉をお願いします。まずは山本先生。
- 山本)
- はい。日本の臨床研究における国際的な地位ということを考えると、体制は以前に比べてだいぶ整ってきたと思いますね。今後もう少し現場の意見を取り入れ、現場主導で動く体制ができれば、日本の研究の地位も再び上がると思いますよ。やはり、国任せとうのはやめて──もちろん国の指導なりお金はお願いしないといけないけれど──もっと現場主導でやるような体制を築くことが重要だと思います。
- 上竹)
- ありがとうございます。
岩江先生、いかがでしょうか? - 岩江)
- 僕も全く同じで、少なくとも臨床研究に関する政策形成の場に、もっと研究支援の現場の人間を関与させるべきだと思います。単に審議官を送り込むという話ではなくて、もっと手前の段階から議論の場を作って問題提起を行うような活動が必要です。
- 上竹)
- 赤林先生、いかがでしょうか?
- 赤林)
-
今日分かったことは、中央倫理審査委員会というものを進めていくには、まだまだ日本では下準備が必要で、一足飛びにいけばハッピーになれる、というわけではないということです。
例えば、ヨーロッパの例では、中央倫理審査委員会をやっていても問題があるという話が出てきました。アメリカの例ではNPOを上手く活用しているという話が出ましたが、日本は中央倫理審査委員会も進めながら、かつ米国のやり方も参考に、独自の方法論を探るのが良いのかなと。その際には「現場感」と「ボトムアップ」、これが一番重要だと思いました。この二つを意識して今後も努力していけば、いずれは良い制度ができるのではないかと思います。 - 上竹)
- わかりました。皆さん、これからもお互いに頑張って参りましょう。
本日はどうもありがとうございました。 - 一同)
- どうもありがとうございました。