第三回 認知症を取り巻く現状と認知症患者を対象とした研究倫理について

4. 認知症研究の倫理審査の重要性

認知症研究において、倫理審査は重要だと思います。繰り返しになりますが、認知症の方というのは社会的に弱い立場にあり、自分で適切な判断を下すのも難しいからです。研究協力をお願いする場合、強引だと不信感を抱かれてしまう一方、言葉巧みに誘導すればできてしまうという危険性もあるわけですからね。
私も、本当に意義や目的を理解して研究に参加されているのか?結果的に納得しないまま研究に参加させてしまっているのではないか?と不安になる時があります。

そうした、被験者の同意に関する倫理的な問題を防ぐには、第三者の介在ということも有効ではないかと思っています。ある程度認知症の知識を持っている後見人のような方の立ち会いのもとで研究内容を説明し、その上で“これなら研究に参加しても良いのではないか”と言ってもらえれば、こちらもホッとします。
まだそうした事例はありませんが、いつか制度化されるといいですね。

あまり研究に慣れていない介護者の方にも研究に協力してもらっていたりするので、研究方法の設定には限界があります。そこで審査の際に、例えば対象や介入方法、評価・測定方法、評価期間など研究デザインの厳密性を求められると辛いところがあります。
評価指標についても、認知症研究においては本人のQOL、つまり満足感や症状が改善ないし安定しているかということが大切な指標なのですが、その成果は目に見えづらい。認知症の人に“あなたは幸せですか?”と聞いてもなかなか判りませんからね。
つまり、どのような評価方法、アウトカムが正解なのか判らないのが認知症研究の特徴なので、研究デザインが描きやすく、新しい治療法や新薬といった形で成果が見えやすいiPS細胞研究などとは違うということを、倫理委員会のメンバーの方々には理解していただければ幸いです。

5. 認知症研究について企業に期待すること

創薬の分野では、なかなか成果が上がらないので、撤退する企業が多いのが残念です。
しかし、デバイス(機器)についてはハードルが低い領域だと思います。
例えば、一人暮らしの高齢者の家のポットにセンサーがついていて、お湯を注ぐと安否確認ができるという商品。ああいった機器は医療機器ではありませんから、倫理検査も通りやすく製品化もしやすい。徘徊する患者さんを見守るためのネットワーク・システムも、通信業者にとっては良いビジネスチャンスだと思います。
結果的に患者さんやご家族のためになるので、ぜひ積極的に参入してほしいですね。

おわりに

私たちは認知症を、医療・介護・看護、全部一体で対処するものとして捉えています。
研究内容もそれぞれの垣根をまたぐ内容が多いのですが、省庁から出る研究費についてはどうしても縦割りになってしまいます。“うちが出すのだから介護報酬の研究をしてほしい”“うちは医療のところしかお金は出さない”などと言われると、ちょっと現場感と合ってないな、と思ってしまいます。

倫理審査の面でも、あまり細かく規定しすぎず、現場の裁量を残して対応していただけると嬉しいですね。
そういう方向になりつつありますが、さらに倫理委員会のメンバーの方の理解が深まれば、我々もより研究がしやすくなり、結果的に患者さんやご家族のためになると思うのです。